2021/03/04 17:41

 “パンク”とはなだろう?

つぎはぎだらけの服を着て、ハリネズミのように髪を立てて、鼻に安全ピンを刺している、そんなイメージがある。

しかし、それはあくまでも見た目の話しで、パンクの本質とは「反骨」だ。

商業化したロック・ミュージックに、平和ボケした日常に、保守にあぐらをかいた権力者たちに対し

FUCK!」と指を突き立てる、そんな反骨精神こそがパンクだ。

今回は、パンク・スピリットに満ちた私の先輩を紹介したい。

彼らに共通していたのは「言葉のパンク」である。


 パンク先輩A

私は以前、関東の眼鏡店で働いていた。

A先輩と出会ったのは新人として配属された店舗でのこと。

中途採用でほんの数ヶ月前に社員になったばかりだというのに、先輩の販売力はすごかった。

何十万もする高額品をぽんぽん売ってしまうのだ。

いったいどんな販売トークをしているのだろうと盗み聞きしたことがある。

先輩はメガネ・フレームを二本だけ持って

「この安っぽいのと、こっちの高級なの、どっちがいいですか?」

お客さんは高級なフレームを選んだ。

つぎはレンズ。

「この曇ったのと、透明なの、どっちがいいですか?」

お客さんは透明なレンズを選んだ。

中間の物など説明しない、二者択一である。

「曇ったレンズ」と言っていたが、正確には反射があるレンズ。

反射防止コートがしてないと、確かにレンズ表面が白く反射するが、物の見え方自体は変わらない。

だから「曇っている」という表現はちょっと違うような…。

そんなA先輩は翌月

「俺、ラーメン屋やるわ」

と言い残し会社を辞めた。


 パンク先輩B

メガネ購入者のカルテを整理していて、B先輩が記入した見慣れないメガネのブランド名を見つけた。

「ローラ・ビタゴッテ」と書いてあった。

不思議に思って調べてみるとイタリアのブランド「ラウラ・ビアジョッティ(LAURA BIAGIOTTI)」のことだった。

そのことをB先輩に報告すると

「いーんだよ、読み方なんてフィーリングでよー」

と一蹴された。

こんなこともあった。

加工室でメガネを作って(レンズを削ってメガネフレームにはめる行為)いると、いきなりB先輩が

「タカナミ〜タ!」

と叫び、くねくね踊りながら入ってきた。

「お客さん待ってるからよー、1時間でメガネ二個作ってくれよ」

「いいですよ、どこのフレームですか?」

「クエスチョン・ディオリンガーとイヴァー・セニョーローリンガー」

「はっ?」

「クリスチャン・ディオールとイヴ・サンローランだよ」

「そんな変形体で言われても解りませんよ」

「普通に言ってなにが面白れーんだよ、リミックスだよリミックス」

B先輩は数年後、ラッパーを目指して会社を去った。


 氷雨降る夜のBGMに長崎を舞台にしたオペラ「マダム・バタフライ〜ある晴れた日に」はいかがだろうか。
それも普通のバージョンではない、オペラに“ダンス・ビート”と“ラップ”が融合したマルコム・マクラーレン盤だ。
マルコムは知る人ぞ知る、セックス・ピストルズの生みの親である。
この型破りな「蝶々夫人」を聴くと、二人の先輩のことを思い出す。
今もどこかでパンクな人生を送っているに違いない。

『THE NAGASAKI No825』(2008年12月12日発行)に掲載


『FANS』MALCOLM McLAREN(ISLAND/1984)