2022/09/02 08:26

 モッズをご存知だろうか? 

  ロンドンを中心に流行した60年代のユース・カルチャーである。

三つボタンで細身のスーツの上下にM-51(米製ミリタリー・パーカー)をはおり、足下は先の尖った革靴でキメる。

或いはポロシャツ(フレッド・ペリー)にホワイト・ジーンズ(リーバイス501)、デザート・ブーツ(クラークス)といった格好でド派手な装飾をつけたイタリア製のスクーター(ランブレッタかヴェスパ)に乗って週末のクラブにくり出す。

ドラッグをキメたらアメリカ最新のサウンド(スペクター、モータウン、スタックス)で女の子と一晩中踊り明かす。

大雑把に言うとそういう生活をしていた労働者階級の若者文化である。

このたかが10年にも満たない一都市のブームが21世紀の今現在も影響を及ぼし続けている。

街を見回してみてほしい。

モッズ系ファッションをしている人を容易に見つけることができるはずだ。

しかしながらモッズ・カルチャーの本当の凄さは外見を越えたところにある。

それは日々のこだわりだ。

モッズの語源は「モダニスト」である。

彼らは日常の立ち振る舞いすべてがモダンであることを至上命題としていた。

例えば、モッズの「正しい立ち方」というのがある。

両手をズボンのポケットに入れて、少し前かがみで背中は壁に寄りかかり、片足のひざを曲げて靴の裏を壁につけるというもの。

これがもっともクールなモッズの決めポーズなのである。

他にも正しい歩き方、正しい煙草の持ち方、スクーターに乗ったときの正しい姿勢など細部にこだわりまくる。

 私の知る30代のモッズI君は、ガムを噛む時は必ず二個同時に口に入れる。

「歯ごたえ」にこだわっているのだ。

「食べます?」といって人に勧める時にも二個セット。

残りが奇数になっては彼のモッズ道に反するのである。

先日、I君と音楽の話をしていたのだが、よく見たら壁によりかかり片ひざを曲げる例の「モッズ立ち」をしているではないか! 

こんな日常の、なんでもない一場面においてでさえ、彼はモッズという生き方を追求・実践しているのである。

 

 鎌倉時代にもモッズがいた。

道元(1200〜1253)率いる曹洞宗の禅僧たちである。

彼らは日常のすべてを修行とみなし、細部にこだわった。

正しい手ぬぐいの使い方

トイレにいく途中に人と会った際の正しいポーズと挨拶

正しいトイレ作法

トイレの後の正しい手の洗い方

あるべき口臭の状態

正しい口のすすぎ方

楊枝の正しい使用法と廃棄法

などなど沢山ありすぎて書ききれない。

あまりの細かさに「えええぇー、そこまでこだわるんですかー」と後ずさりしてしまう。

 道元と長崎の関係については1227年に中国から帰国した道元が島原半島に寄ったという伝説が残っている。

道元が開いた日本曹洞宗の禅寺は長崎にも幾つかあるが、その代表格は寺町にある晧台寺(1608年、亀翁良鶴によって開山)であろう。

何を隠そう私は寺に併設されている晧台寺幼稚園の卒園生である(小笹先生お元気ですか!)。

毎週御堂で座禅の時間があったのを覚えている。

集中力がなくキョロキョロしている私はよく僧侶に後ろから肩をシャクのような棒(警策)で叩かれた。

「ワラベよ、日々の一挙手一投足にもっとこだわって生きなさい」

と教えてくれていたのかもしれない。

道元のこだわりライフについては田中克憲氏の『道元に学ぶ「洗面」「洗浄」』が詳しい。

凍雨(とうう)降る寒い朝、襟を正して読んでみてはどうだろうか。

  2011年1月7日発行の『THE NAGASAKI No.679』に掲載されたテキストの再録です



「道元に学ぶ「洗面」「洗浄」」 田中克憲著 長崎文献社