2022/11/26 10:32

 「スライム」をご存知だろうか?

  私が小学生の時に流行ったオモチャだ。

蓋のついたポリバケツの中に、蛍光グリーンでドローっとしたアメーバー状の物体が入っている。

今思えばこんなモノの何が楽しかったのか分らないけれど、クラスの誰もが持っていた。

私も親にねだって、とびきり大きいやつを買ってもらったのだが

中島川沿いで転んでバケツの中からスライムが転げ落ちてしまった。

まだ舗装されていない時代だったから、ネバネバしているスライムは砂だらけ。

まるで「きな粉餅」のようになってしまった。

砂を取ろうとしたら逆に混ざって、もう使い物にならない。

まさに「覆水盆に返らず」である。

 

 中学の時、スケッチ大会で諏訪神社下の小さな動物園に行った。

当時タヌキがいて、テレビアニメの『あらいぐまラスカル』みたいで可愛かった。

檻に指を突っ込んだら「クーン、クーン」と鼻をすりつけてきた…次の瞬間

「ガブッ」と噛みつかれた?! 

私は指を流血し、先生に付き添われて病院に駆け込んだ。

一時間後、包帯をグルグルに巻いて戻ったら

「タヌキに噛まれた奴がいる」と学校中の笑い者になっていた。

この現象は「人間が犬に噛まれてもニュースにならないが、人間が犬に噛みつけばニュースになる」

という言説のバリエーションである。


 東京サラリーマン時代に友人宅で「ビックリおかずコンテスト」を開催した。

それだけで食べるのが普通だと思っていたメニューが、実は

「ご飯のおかずにも最適」ということを証明する試食会である。

最初の挑戦者は東京・月島出身のA君。

鉄板持参で、我が家の定番メニューという「もんじゃ焼き定食」を作ってくれた。

小エビや豚肉、チーズなどが入ってなかなかであった。

次の挑戦者は大阪出身のB君。

マイたこ焼き器で作る「たこ焼き定食」だ。

味が派手だしマヨネーズがかかっているので確かにおかずになる。

おやつのような味の「もんじゃ焼き」では「たこ焼き」には太刀打ちできなかった。

B君は勝ち誇り、A君はシュンとした。

最後は長崎代表の私の番である。ズバリ「皿うどん定食」。

しかも昨晩作った「二日目の皿うどん」である。

パリパリ麺にはとろみスープが染み込みこんで「しっとり」している。

これに金蝶ソースをかけてご飯といただく。

果たして…、満場一致の大勝利であった。

「さすがは長崎」とみなが絶賛した。

 A君(東京/江戸)とB君(大阪)と私(長崎)は、図らずも

「江戸の仇を長崎が討つ」通りになった。

「意外なところで仕返しをする」という意味で使われる

「江戸の仇を長崎で討つ」であるが、

これは間違って伝わった意味と言葉である。

正確には「で」ではなくて「が」だ。

江戸時代の話。大坂の職人がつくった篭細工が、江戸の見世物小屋で評判を呼んだ。

シャクにさわった江戸職人が勝負を挑むも惨敗。

そこに現れた新たな挑戦者が長崎のガラス細工人。

ギヤマンとビイドロを駆使し、異国の風物を表現した細工に観客の人気が集中

大坂職人を圧倒したのだ。これが「江戸の仇」の正しい由来である。

 

 古文に書かれたエピソードや教訓は伊達じゃない

理由はよくわからないけれど歴史は繰り返すのだ。

我々は、先人からもっと学ばなければならない。

「江戸の仇」の話は永島正一さんの『長崎ものしり手帳』に載っている。

催花雨(さいかう)がしとしと降る朝、二日目の皿うどんでも食べながら読んでみてはどうだろうか。

  2011年5月27日発行の『THE NAGASAKI No.689(最終号)』に掲載されたテキストの再録です

 

長崎ものしり手帳』 永島正一著 葦書房