2022/12/24 10:17

 日本史上、最も古い洋楽系バンドをご存知でしょうか。

 それは16世紀の長崎で13歳の少年たちが結成した「天正遣欧少年使節」です。

キリスト教音楽専門でメンバーは

リュートの伊東マンショ

ハープの千々石ミゲル

ヴァイオリンの原マルチノ

クラヴォ<鍵盤>の中浦ジュリアンの4人組

(誰がどの楽器を担当したのかは想像です)。

大村・有馬・大友のキリシタン大名家から選抜されました。

異国人への布教に熱心だったイエズス会士が

「我々は異教徒の信者化に成功しました!」

と本国へ成果報告するため、作為的に結成されたモンキーズのようなバンドです。

彼らはヨーロッパ各地をツアーして貴族や市民から熱烈な歓迎を受けました。

当時、世界で一番偉かったローマ教皇と二番目に偉かったスペイン国王が、涙して迎えたという話まであります。

日本を経って8年後に帰国。

豊臣秀吉の前で凱旋公演をして、3回もアンコールをもらいました。

 四人は今に置き換えると中学から大学まで、人間の嗜好を決定するであろう8年間を本場のルネサンス音楽と共に過ごしました。

洋楽を身体化した彼らがトレンド・リーダーになって、日本人に洋楽文化を広めていく。

ここから和製洋楽の歴史が始まるはずでした。

でも何も始まらなかった。

洋楽はぷっつりと切れてしまいます。

西洋列強の侵略を恐れた秀吉が外国人宣教師をその手先と見なし、キリスト教を禁止してしまったからです。

「天正遣欧少年使節」は解散。

日本キリスト教の受難時代がはじまります。

本格的な洋楽導入は西洋化が進められる明治期まで、実に250年以上も待たねばなりませんでした。

 16世紀。秀吉が鉄砲と同じように「技術」として洋楽を受け入れていたら。

「ヨナ」を入れて「ファ」と「シ」の音階を日本人が手にしていたら。

きっと邦楽は今と違った発展をしていただろうと夢想しています。

 以上のような内容に興味がある方は聴いて学べる

『ナガサキ洋楽事始め/高浪慶太郎となんがさき・ふぁいぶ』をどうぞ。

   2012年8月25日発行の『月刊てりとりぃ第30号(9月号)』に掲載されたテキストの再録です



ドレミの大航海〜ナガサキ洋楽事始め

高浪慶太郎となんがさき・ふぁいぶ