2023/01/28 10:36
「突然ですが日本国は西洋の暦に切り替えることにしたので、
来月の12月3日をもって明治六年正月ということでひとつよろしく」
と国からお達しがあったらどうしますか?
私なら「冗談じゃない」と断固反対します。
庶民たちは混乱したことでしょう。
だって大寒(1年の内で一番寒さが厳しい時期)もまだなのに
震えながら「謹んで初春のお慶びを申し上げます」
なんて挨拶をしなくてはならないのですから。
本来、正月とは「これから、だんだんと暖かくなりますね」という立春の行事。
体感温度と比例する太陰暦で千年近く暮らしていたのに、
視覚的に明るいか暗いかを基準とした太陽暦への急変は一般に浸透するまで時間がかかったに違いありません。
でも長崎の一部の人々は比較的スムーズに太陽暦に移行したはず。
彼らは二百年も前から教会暦(新暦に則ったカトリックの儀式カレンダー)で暮らしていたからです。
ご存知の通り当時は禁教令が出されキリスト教は御法度。
見つかると捕らえられ、棄教するまで拷問されます。
それでも信仰を捨てない者は死刑。
そんな時代に教会暦で生活なんて公にはできませんよね。
誰にも内緒です。
だから彼らは「隠れキリシタン」と呼ばれました。
長い潜伏期間が終わって禁教令が解かれたのは明治六年。
もう隠れる必要がなくなりました。
しかし何世代もの間、正式なキリスト教の指導者が不在だった為に仏教が混ざった土着の宗教へと変貌していたのです。その結果、
カトリックへ復帰した者
仏教に転宗した者
そのまま隠れキリシタンを維持した者
に分裂してしまいました。
「太陽暦は不便でしょんなか、生活に密着しとらんけんね。
陰暦の何日といえばすぐお月さんがどれくらいの大きさになるとわかり、潮の干満もおよそいつごろと見当がつく」
まったく同感です。
新暦はグローバルに生きる人以外はさほどメリットがありません。
一般庶民は旧暦で暮らすほうが便利なのになぁと思う今日この頃です。
2013年2月23日発行の『月刊てりとりぃ第36号(3月号)』に掲載されたテキストの再録です