2023/04/08 10:26

 鬼の話は日本各地にありますが、その伝説が生まれるきっかけは様々です。

例えば、鬼伝説でもっとも有名な大江山の酒呑童子の場合。

実は、比叡山から大江山に集団移住してきた童(日常的な雑役に服した階級の者)が盗賊化したもので

それを民衆が「鬼伝説」に置き換えたという説があります。

もう一つ面白い説があって

「しゅてんどうじ」

とは丹後の浜辺に漂着した西洋人

「シュタイン・ドッチ」

の名が転化したものだと言うのです。

西洋との交流が無い日本人が見ると、西洋人の風貌というのはとても奇異に見えたのでしょう。

その偏見からくる感情が、ドッチを赤毛で人の生き血(実はワイン)を飲む

「鬼」

に仕立ててしまったものと思われます。

 

 長崎県の離島壱岐は昔「鬼ヶ島」と呼ばれていました。

 壱岐に限らず、日本の島々には多くの鬼伝説があります。

それはシュタイン・ドッチの例でもわかるとおり「異国人が訪れる頻度が高い」からです。

てっきり壱岐の鬼伝説も「渡来人」に由来するものだと思っていたのですが、違っていました。

壱岐の民俗学者山口麻太郎は『鬼ヶ島「壱岐」』で、次のように記しています。

 

「壱岐の島を“鬼ヶ島”と信じたことは、古墳が鬼の岩屋と云われていることでもわかる。

あんな巨大な石を組んで横穴を作る事は、人間わざではない。

鬼が作ったものであろうと考えた。

この古墳が昔は数百基もあったらしいので、こんなに沢山の“鬼の家”があったと信じたらしい」

 

 「巨大古墳」にインスピレーションを得て、鬼物語をつくりあげた訳です。

さらに壱岐の先人たちは、島の「自然物」でも想像力を広げていきました。

 郷ノ浦の海岸線に「鬼の足跡」と名づけられた直径50メートルもある大穴があります。
これは玄武岩が波に浸食されて空いた洞穴の天井が陥没して出来たものですが
ここから「デイの話」が生まれました。
大昔、雲にとどくような「デイ」という大鬼がいて、唐(中国)と北九州の間を歩いて往復していました。
そのちょうど中間にある壱岐でふんばった際にできたのが「鬼の足跡」というわけです。
2014年8月30日発行の『月刊てりとりぃ第54号(9月号)』に掲載されたテキストの再録です