2023/04/14 10:26

 私の知る限り最も古い長崎ミステリーは、1924年に出版された『黄婦人の手』。

作者は長崎生まれで俳優大泉の父でもある大泉黒石です。

本作をきっかけに長崎を舞台にしたミステリー小説のコレクションをはじめ、現在47冊を収集。

これらをリスト化して年代別に並べてみたら、面白い傾向が見えてきました。

 

 『黄婦人の手』が出版された20年代から70年代までの約50間が7冊なのに対し

80年代以降の30年間あまりですでに40冊。

しかもその多くが西村京太郎に代表されるような「トラベル・ミステリー」と呼ばれるジャンルでした。

なぜ80年代以降「旅」をテーマにしたミステリーが書かれるようになったのでしょう。

 それまで日本人の旅行というと社員旅行のような団体旅行が主流でした。

ところが万博が終了した70年の九月からはじまった国鉄(現JR)のキャンペーン

「ディスカバー・ジャパン〜美しい日本と私」と同時期に創刊された女性誌「an an」「non-no」によって

若い女性を中心とした少数単位での個人旅行ブームが起こります。

70年後半以降も国鉄の

「いい日旅立ち」「フルームーン」「青春18きっぷ」

キャンペーンで旅行ブームは続き、旅行客の年齢層も広がりました。

こうして旅が身近なものとして浸透した80年代に登場してきたのが

「観光地で殺人事件が起こる」というトラベル・ミステリーです。

そしてこれらの小説を原作とした二時間ドラマ(土曜ワイド劇場、火曜サスペンス劇場)

が各放送局で作られるようになったのもほぼこの時期からです。


 長崎を舞台にしたトラベル・ミステリーの特徴は、
大浦天主堂・グラバー邸・オランダ坂・眼鏡橋・中華街といった観光名所に
チャンポンや皿うどん、卓袱料理といった食を組み合わせ「エキゾチック感」を演出していることです。
尚、作品のモチーフとして一番多かったのは「隠れキリシタン」で
生月島や五島、平戸、雲仙、島原も舞台になりました。
どの作品も「さぁ、長崎をどうミステリーに調理してやろうか」
という作家の創作意欲が伝わってきて大いに楽しめますよ。
2014年10月25日発行の『月刊てりとりぃ第56号(11月号)』に掲載されたテキストの再録です