2023/04/29 10:34

「カステラの夜」という会を催しました。

参加者は友人十名。

会費で有名六店のカステラを購入し、切り分け、どこの店のものか分からないようにして食べ比べます。

甘さ・食感・香り・しっとり度・ザラメ度といった項目にわけて細かくチェック

各自でランク付けしていくという企画です。

この会を企てたのには理由がありました。

長崎人にはそれぞれひいきの店があって

「カステラといえばこの店だね」

などと確信をもって話します。

そこで問題提起。

長崎の人間であっても、異なる店のカステラを同時に食べることはまず滅多にありません。

比較するには「以前食べた味を思い出しながら…」ということになります。

カレーやラーメンのように味がはっきりしている食べ物であればそれも可能ですが

カステラは“味”以上に“香り”と“食感”を楽しむ繊細な菓子。

味をはっきりと思い出せないのでは?と疑ったのです。

果たして、結果は予想した通りになりました。

私にもカステラといえば絶対にA店という一押しがあり、食べ当てる自信もありました。

ところが、当てるどころかA店に一番低い評価を下してしまったのです。

他の参加者たちも似たようなもので、それぞれの一押し店を必ずしも一番に評価してはいませんでした。

自分たちのカステラへの思いが、いかに不確かなものであったかが明らかになったのです。

結論としては、各店のカステラには個性があり

甘さ、香り、食感のバランスの取り方でそれぞれの特徴をだしています。

したがってブランドの好き嫌いというのはあまり重要ではなく

料理によってワインを選ぶように、その場面場面に相応しいカステラをチョイスすることが大切なのです。

「カステラの夜」は十人の偏見の壁を壊した有意義な催しでしたが、少々問題もありました。
六店のカステラを順に二、三口ずつ食べていくのですが
三往復もすると甘さで味覚が麻痺し、激しく胸焼けするはめに。
会後に予定していた夕食会はキャンセルになってしまいました。
2015年2月28日発行の『月刊てりとりぃ第60号(3月号)』に掲載されたテキストの再録です