2023/05/06 10:24

「越後屋、おぬしもワルよなぁ」

「いえいえ、お代官様ほどではイッヒッヒッヒッヒ」

という時代劇でお馴染みのシーン。

だいたいこういう悪巧みは

「ロウソクがゆれる薄暗い和室」でおこなわれるのですが

これが長崎舞台の場合、小道具が違ってきます。

実際、萬屋錦之助が長崎奉行を演じた『長崎犯科帳(75年・日本テレビ)』でそういう場面がありました。

同じ和室なのですが、そこには「西洋のテーブルとイス」が置かれ

ゆれる灯りは「西洋ランプ」で、代官が飲んでいるのは「グラスワイン」

さらに怪しげな「中国人」も同席しています。

見ていただくと分るのですが、この場面かなりエキゾチックです。

なぜ、和室にランプやグラスがあるだけでエキゾ感が出るのでしょうか。


 長崎のエキゾ感は、生卵に醤油をかけてそれを荒く三、四回混ぜた状態に似ています。

これをご飯にかけると黄身が強いところもあれば、ほとんど白身や醤油だけのところもある。

まだ文化と文化がしっかり混ざりあってない状態。

逆に、完全に混ぜきると味は安定するし、且つまろやかになりますよね。

これがつまり「洗練の極み」です。

したがって長崎は「洗練のはじまり」なのです。

長崎エキゾのシンボル「大浦天主堂」は正面から見ると西洋建築ですが

上から見ると瓦の三角屋根で、西洋と日本をそのままの形で合体させたような建物。

つまりこういう「ダイナミックな融合」が長崎のエキゾ感を醸し出している訳です。


 江戸期の長崎土産「長崎版画」はオランダ船や出島など
長崎ならではの風物を「西洋の手法」で描いた木版画です。
エキゾ感に溢れた長崎版画は当時大変な人気でした。
ところが、江戸の浮世絵版画と比べると繊細さに欠け「幼稚」と酷評されます。
そこで、長崎の版元は京都から腕利きの職人を呼び、同じ題材で描かせたのですが
途端にエキゾ感は消え「質は高いが普通の版画」になってしまいました。
洗練されることで失われる「良さ」というものもあるのですね。
2015年4月30日発行の『月刊てりとりぃ第62号(4月号)』に掲載されたテキストの再録です